平成28年3月31日、「社会福祉法等の一部を改正する法律」(改正法)が成立、公布され、平成29年4月1日から施行されます。
この法律では、福祉サービスの供給体制の整備及び充実を図るため、社会福祉法人制度の改革として、経営組織のガバナンスの強化、事業運営の透明性の向上、財務規律の強化等の改革を進めるとともに、福祉人材の確保の推進として、社会福祉施設職員等退職手当共済制度の見直し等が講じられることになりました。

そして、今回の改正法では、
社会福祉法人制度についての経営組織のガバナンスの強化の一つとして、公益性・非営利性を確保する観点から制度を見直し、国民に対する説明責任を果たし、地域社会に貢献する法人の在り方を徹底するために、一定規模以上の社会福祉法人は、公認会計士又は監査法人による会計監査の義務付けがなされました(改正法第37条)。

現行では、資産額100億円以上若しくは負債額50億円以上又は収支決算額10億円以上の法人は2年に1回、その他の法人は5年に1回の外部監査が望ましいとされておりました。
なお今後、監査費用の負担能力や監査の受入れに係る事務体制を考慮し、専門的な検討をしたうえで政令で定めることとされますが、厚生労働省では、現在、「年間の収益が10億円以上か負債20億円以上」(全2万法人のうち1636法人)についてを会計監査人設置を義務付けるとする案が出ておりますが、実際の対象範囲については、今月6月をめどに結論が出される予定です。

また、財務規律の強化として、いわゆる内部留保の明確化・社会福祉充実残額の社会福祉事業等への計画的な再投資を明確にするために、「社会福祉充実残額(再投下財産額)」(純資産の額から事業の継続に必要な財産額(①事業に活用する土地、建物等②建物の建替、修繕に要する資金③必要な運転資金④基本金及び国庫補助等特別積立金)を控除等した額)の明確化、そして、「社会福祉充実残額」を保有する法人に対して、社会福祉事業又は公益事業の新規実施・拡充に係る計画である、社会福祉充実計画の作成が義務付けられました。

この社会福祉充実計画の作成については、社会福祉法人は、その高い公益性と非営利性を備えておりますので、国民の税金である、行政からの補助金や税制優遇措置を受けていることに鑑み、その事業運営の中で発生した利益の蓄積である内部留保が、適切に持続的な地域福祉の向上のために、社会福祉事業に再投資がなされているのかどうかを、国民に対し、説明責任を果たすという趣旨となっております。

今回の改正法では、社会福祉充実計画の作成に当たっては、公認会計士、税理士等の財務に関する専門的な知識経験を有する者の意見を聴かなければならないものとされておりますが、厚労省によりますと、今年の12月をめどに各法人が決算を見込んで計画の策定に着手するスケジュールを想定しているようですので、実際に計画策定に必要な情報収集や新たな業務の発生、計画への落とし込み等は11月までには完了しておく必要がありますので、各法人様については策定作業に追われることになるかと思います。

社会福祉充実計画の策定に際しては、内部利益の再投下計画として、①社会福祉事業等への投資額として、地域のニーズに対応した新しいサービスの展開(新規事業計画)や、 他産業の民間企業の従業員の賃金等の水準を踏まえた処遇での人材投資(人員計画)、②地域公益事業への投資額として、無料又は低額な料金による福祉サービスの提供、③公益事業投資額を計画に盛り込む必要があります。

また、公認会計士(又は監査法人)の外部監査については、いわゆる、内部統制の評価を実施した上で監査を実施するリスク・アプローチによる監査が実施されておりますので、これから外部監査を受ける必要がある一定規模の社会福祉法人様については、監査態勢の構築が急務になるかと思います。

このように、平成29年4月1日の施工までに時間は余りありませんが、公認会計士や税理士は、外部の会計専門家として、実効性のある当該社会福祉充実計画が作成され、かつ、中長期的な事業計画書との整合性の確認が求められてくると同時に、一定規模の社会福祉法人については、公認会計士は外部監査を実施することにより、社会福祉法人の運営に係る透明性の確保に寄与する役割が求められてきます。

外部監査態勢の構築や社会福祉充実計画の策定が必要となる社会福祉法人様については、お気軽にご質問ご相談を頂けますと幸いでございます。