本日の日経に持続可能性会計基準機構(SASB)の記事がありましたので、ESGにご関心がおありの方はご参考にされてください。

 

SASBは18年11月、世界初の産業別ESGの基準を発表しており、企業が投資家にとって最も重要なESG課題に的を絞って報告できるよう、企業の財務状態や業績と最も関連性の高い非財務情報を報告できるように設計されています。 加えて産業別については、計77業種について、それぞれ重要度の高い開示項目と開示手法などを示していることから、これからESGをご検討する企業様にとっては、かなり参考になる資料になると思われます。

 

下記に77業種を纏めましたので、あてはまる産業の基準をSASBでご確認してみてください。

以下、当該記事を引用させて頂きます。

事業環境が急速に変化する中で、企業は次々と新たなリスクと機会に直面している。気候変動、資源制約、人口増加、技術革新、グローバル化などは企業の価値創造力を脅かして、長期的には経済全体の繁栄を危うくしかねない。

環境変化に対応して市場が効率的に資本を配分するには、これらのリスクと機会が証券価格に適切に織り込まれる必要がある。そのときに重要な視点は「持続可能性(サステナビリティー)」だ。持続可能性が企業の財務要因に及ぼす影響をどうみるかについて、企業と投資家を適切に結び付けることが求められている。

世界の投資家は投資先企業の持続可能性への関心を強めている。2300以上の組織(運用資産総額86兆ドル以上)が、国連が2006年に提唱した「責任投資原則(PRI)」に署名済みだ。責任投資原則は、投資分析と出資決定のプロセスに環境・社会・企業統治(ESG)の要素を組み込むことを促す指針だ。
一方で企業側もESG課題への取り組みを熱心に開示している。実際、日本の大手企業の大半がサステナビリティーリポートを公表している。だが企業が公表する持続可能性情報は、必ずしも投資家のニーズに応えるものではない。例えば投資判断の重要な材料となる企業の財務状態、業績、株価評価と明確に関連付けられていない。

また投資家はESGデータの正確性や信頼性に関心を持つが、これらのデータ開示には伝統的な財務報告に適用される厳格な監査がなされていない。この状況に対応するため、11年に米コンサルタントのジーン・ロジャース氏が非営利団体「持続可能性会計基準機構(SASB)」を設立した。

SASBは18年11月、世界初の産業別基準を発表した。企業が投資家にとって最も重要なESG課題に的を絞って報告できるよう、換言すれば企業の財務状態や業績と最も関連性の高い非財務情報を報告できるように設計した基準だ。企業の既存の統治、監督、戦略立案、リスク管理、業績監視プロセスに組み込めるように設計されている。

学術的な研究でも、重要な持続可能性の要素を選別する戦略的アプローチ(すなわちSASBモデル)を使って資産配分比率を高める銘柄を選定すれば、投資家のリターンが増えることが示されている。 このようにSASB基準は、資本市場の参加者が企業のビジネスモデルや機関投資家の投資ポートフォリオに含まれるリスクと機会をより効率的に選別、評価、管理、監視するための実践的なツールとなる。

既に約100社が投資家への開示にSASB基準を採用している。米ギャップ、米ケロッグ、米ナイキなどのグローバル企業のほか、NTTや大和証券など日本の大手企業も含まれる。 持続可能性に関する企業の実績を計測、管理、報告するのは容易でない。ESGに関するリスクと機会は産業により異なるからだ。

例えば気候変動のような大規模な問題は事業内容により影響が異なる。アパレル企業の場合、綿花が気候の変化に弱い作物のため、木綿の仕入れに影響する。市中銀行の場合、融資先企業のリスク評価に影響が出る。炭素排出量の多い借り手のリスク要因が増え、返済能力が低下しかねないからだ。また自動車メーカーの場合、厳格な規制に合格し消費需要パターンの変化に応えられるような代替燃料車の開発が必要になる。 こうした事情に配慮してSASB基準は計77業種について、それぞれ重要度の高い開示項目と開示手法などを示している。

気候変動に関しては、主要国の金融規制当局で構成する金融安定理事会(FSB)の「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」が関連のリスクと機会の財務的影響を整理して、開示推奨情報を明らかにした提言を出している。TCFDの提言には世界の800以上の企業・機関が賛同している。 日本企業も約200社が賛同しており、民間主導でTCFDへの対応を推進するため、19年5月に「TCFDコンソーシアム」が設立された。経済産業省、金融庁、環境省もオブザーバーとして参加する。10月上旬には日本でTCFDサミットが開催され、企業と投資家が一堂に会し、TCFDの提言の最適な実行方法を巡り意見を交わした。

企業統治・経営戦略・リスク管理などの開示を巡っては、TCFDは包括的な指針を示す一方、SASB基準はどの項目をどのように計測すればよいのかという産業・業種別の指標を示す。企業が経営戦略に基づき定めた気候関連の目標に関しても、SASBの産業・業種別の指標はその進捗状況を知る手掛かりになる。

企業も投資家も非財務情報への関心が高いため、世界各国の規制当局は情報開示の義務付けが望ましいかどうかを検討している。ESG情報の開示が既に義務付けられている欧州がグローバル規制の先例になるだろう。多くの企業がグローバルに事業や投資を展開しているだけに、国や地域が異なる同業種の企業を横断的に比較するにはグローバルな基準が必要だ。

世界のどこでも同じ基準を確立できるのは、国や地域ごとの規制当局ではなく市場だ。市場主導型のSASB基準は現在、アジア、欧州、北米10カ国の機関投資家(運用資産総額33兆ドル)に支持されている。

グローバル化が進む世界では、企業は自社が持つ競争優位を生かすことが可能だ。産業・業種ごとに事業業績と最も密接に関連する持続可能性の項目を明示するSASB基準は、日本企業にとってESG課題のどれに集中し、どのように開示するのが適切なのかを理解する助けとなる。

Madelyn Antoncic ニューヨーク大博士(経済学)。ニューヨーク連銀、世界銀行副総裁などを経て現職 グローバル市場で競合する企業、とりわけ欧州企業は引き続きESG情報の積極的な開示に努めると見込まれる。こうした状況下で日本企業はSASB基準を採用すれば、社債や株式による資金調達コストの増大を防げるだろう。

一方、日本の投資家にとってSASB基準は、投資先企業が抱えるESGリスクが適切に証券価格に織り込まれているかどうかを見極め、同業他社と比較分析し、最も効率的な企業に投資するために必要な枠組みと指標を提供する。

日本の経済政策は、企業統治の面で改革が進んでいるが、これはパズルの一片にすぎない。企業統治は確かな情報に基づいてこそ初めて効果が上がる。投資家重視のESG情報の開示に関するグローバル基準の確立は、次世代の資本市場インフラを象徴するものだ。ESG情報は、企業の価値創出・維持に役立つだけでなく、良きグローバル市民になることを促すという面からもリスクと機会への取り組みを後押しする。

日本企業は健全な企業統治を通じ、重要な持続可能性の要素に関わるリスクと機会に効率的に取り組むことにより、持続可能で包括的な成長を実現し、自社および株主に、ひいては社会全体に長期的な価値を提供できるようになるだろう。