IPOでもなく、社債の発行でもない、第3の資金調達手法として、新規仮想通貨公開(ICO=Initial Coin Offering)」と呼ばれる、従来の資本市場の枠組みにとらわれない新しい手法が、米国ベンチャー企業では急拡大しているようです。

このICOですが、簡単に説明をしますと、ベンチャー企業があるプロジェクトを開始する前に、当該プロジェクト内で利用できるその企業独自のコイン(仮想通貨)を事前に投資家に販売することにより資金調達し、投資家はそのコインを仮想通貨取引所で売買できるというスキームです。

ICOは、証券取引所等の仲介人を排除した企業と投資家との間のダイレクトな資金調達であり、仮想通貨の時価変動やプロジェクト自体の開始可能性もあるので、ハイリスクな手法であることには間違いないのですが、2017年に入り海外を中心に70以上の企業が独自の仮想通貨を発行し、ネット上で個人などに販売して800億円強の資金調達がなされたようです。

一方日本では、金融庁が4月に施行した改正資金決済法により、仮想通貨を投資家に売ったり交換したりする、いわゆる仮想通貨の交換業者については、事前登録制とされ、さらに、「株式会社」「資本金1000万円以上」「公認会計士・監査法人による外部監査」等といったかなり厳格な要件が必要とされることになりました。
その結果、5月末時点で金融庁の登録を受けた事業者は、ゼロでありました。

これは当然ですよね、ベンチャー企業にとっては資金調達の成否が事業の存続に直結しますので、このような厳格な要件では、最初から日本での登録は諦め、海外で事業を開始しようと思うのが通常の考えだと思います。しかし、これでは日本での仮想通貨を用いた事業が遅れる要因にもなることが予想されますので、市場の流動性を踏まえた規制の緩和が日本では必要になると思います。

以下、本日の日経記事を引用させて頂きます。

仮想通貨を活用した資金調達が急拡大している。2017年に入り海外を中心に70以上の企業が独自の仮想通貨を発行。ネット上で個人などに販売して800億円強の資金を調達した。「新規仮想通貨公開(ICO=Initial Coin Offering)」と呼ばれ、従来の資本市場の枠組みにとらわれない新しい手法として注目を集めている。

 4月に米ベンチャー、グノーシスが数分で10億円強の調達に成功したのを皮切りに、5月末には米ブレイブ・ソフトウエアがわずか1分足らずで40億円相当の資金を得た。6月に入るとスイスのステータスがICOとしては過去最大規模の300億円超を集めたとして話題を呼んだ。

 実際、ICOは海外ベンチャー企業などを中心に急速に広がっている。米調査会社スミスクラウンによると、今年のICOによる資金調達額は7億6102万ドル(約850億円)にのぼり、すでに昨年の年間実績(1億252万ドル)の7倍に達している。

 ベンチャー企業にとって資金調達の主流である「新規株式公開(IPO)」では、発行した株式を証券会社に仲介してもらって投資家に販売する。これに対してICOは独自に発行した仮想通貨をネットを通じて個人も含む不特定多数に直接販売するのが特徴だ。証券会社などの金融機関には頼らない。発行企業が配当や利息を払う必要はない。

 ICO通貨に買い手がつくのは、需給次第で値上がり益が期待できるからだ。米ブレイブの仮想通貨「BAT」は発行後、2倍近くに上昇する場面があった。他のICO通貨も高騰が目立っている。売買はネット上の仮想通貨取引所などでできる。発行企業が投資家から直接買い戻したりはしない仕組みになっていることが多いようだ。


 また、ICOを実施するのはネット企業が多く、発行した仮想通貨にはネット上での利用価値がある。例えば米ブレイブはウェブ閲覧ソフト(ブラウザ)の開発を手掛けている。ネット広告の出し手が閲覧した人にBATを支払い、広告の訴求力をあげるといった使い方ができる。こうしたサービスの利用価値がICO通貨の裏付けになっているとされる。

 日本企業によるICOの実施例はまだないが、5月には個人が似た仕組みで資金を調達できるサービス「VALU(バリュ)」が登場した。個人が疑似的な株式を発行して、ネット上で資金を募る。売り出し価格はツイッターのフォロワー数などネット上での個人の影響力をもとに決まる。

 運営会社バリュの小川晃平代表は「アーティストなど才能のある個人を発掘し、応援する仕組みにしたい」と話す。現状、法人の利用は想定していないが「個人事業主のような方であれば活用の可能性はある」という。

 企業の資金調達には証券会社などが必要という常識は崩れつつある。ただ、急速に進化する分野だけに、会計処理や不正行為防止などの面でルールは未整備だ。株主権が認められている株式などとは違って、投資家の権利がはっきりしないという問題もある。

 購入経験を持つブロックチェーンベンチャー、カレンシーポートの杉井靖典最高経営責任者(CEO)は「発行体のサービスの将来性を見込んで購入した。自分の会社でもICOに向けた検討を進めている」と話す。一方で価格変動の大きさから短期の値幅取りを狙う投機筋も増えており、近年では「価格高騰で巨額の資金を手にした大口投資家による循環物色や買い占めが目立っている」という。

■日本で発行、登録必要に?

 日本ではICOも視野にいれた仮想通貨関連の規制が導入され始めている。ICOを実施するにはいくつかの規制をクリアする必要がある。

 金融庁は4月に施行した改正資金決済法で仮想通貨への規制を敷いた。仮想通貨を投資家に売ったり交換したりする事業者に登録制を導入し、法的な位置づけを明確にした。さらに登録を受けるには「株式会社」「資本金1000万円以上」といった条件も付けた。企業がICOを実施する際はまず、金融庁への登録が必要になる可能性がある。

 個人が海外のICOに参加するのは自由だが、未登録の企業が日本で投資家を募るのは違法行為だ。5月末時点で金融庁の登録を受けた事業者はゼロ。金融庁幹部は「必要があれば適切に対応するが、正直まだ想定できない。新たに必要なルールも今後出てくるだろう」と明かす。